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生成AIの普及もあって,2026年のSteamはかつてない量の新作に埋め尽くされている。皮肉なことに,新作の流入が増えるほど新作市場全体の収益は縮小するという逆転現象が起きているのだ。ゲーマーの購買行動も変化し,かつては「即購入の意思表示」だったウィッシュリストは,いまや「セール待ちのメモ帳」と化しつつある。AI時代の供給過多の実態と,初日の売上に頼らずロングテールで生き残るための新しい戦略を考えてみたい。
AIが解き放った「量産」の波,埋没する99.85%のゲーム
8月に行われたgamescom 2026の情報を整理していて思い出したのが,6月開催のSummer Game Fest 2026のことだ。ホストのジェフ・キーリー(Geoff Keighley)氏はGameDiscoverCoのデータを引用し,2026年最初の5か月間にSteamでリリースされた新作は9265本,前年同期の7862本から増加したと語った。同時に,2026年発売で100万本を突破した「バイオハザード レクイエム」「Forza Horizon 6」「紅の砂漠」「Slay the Spire 2」「Mewgenics」など14作が紹介された。
だが,この14作は裏を返せば「9265本中のわずか0.15%」に過ぎない。実際,2026年のPCゲーム市場は数字の上でもはっきりとした異変を見せている。ニューヨーク大学のヨースト・ファン・ドリューネン(Joost van Dreunen)教授が自身の分析サイト「SuperJoost Playlist」(※リンク)で示したデータによると,2026年上半期のSteamにおける新作ゲーム収益は前年同期比で3億9000万ドル(約580億円)減少したという。
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プラットフォーム全体としては一定の規模を維持しているように見えるが,その実態は旧作(バックカタログ)が支えているに過ぎず,新作市場そのものは縮小傾向にある。世界中で新作が日々発表されているのに,なぜ新作市場の収益は伸び悩むのか。要因の一つが,開発現場における生成AIの急速な普及と,それに伴う供給量の爆発的増加だ。
Mainframe Industriesの共同創業者スルカ・ハロ(Sulka Haro)氏が集計したSteamのセンサスデータ(※リンク)は,この供給過多の実態を浮き彫りにする。2024年にSteamでAI利用の開示が義務化されて以降,開示対象タイトルの割合は急拡大した。
制度導入初期は全リリースの数%に過ぎなかったが,現在では毎月の新作の3分の1前後を占めるまでになった。コード生成AIやアセット自動生成ツールの進化により,小規模デベロッパや個人制作者でも,かつてないスピードで作品を仕上げ,ストアに送り出せるようになっている。
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ただし,供給量の急増がそのままクリエイターの商業的成功につながるわけではない。ハロ氏の分析では,AI利用を開示したタイトルの収益分布は極めて不均衡で,収益の大部分は「Arc Raiders」のように潤沢な資金とマーケティング力を持つ一部の注目作が占める。
AIの利用有無を問わず,中小規模の新作の多くはリリース後ほとんど注目されずストアの奥深くに埋もれ,売上の中央値が数百ドル程度にとどまるケースも目立つ。
消費者の受け止め方も一様ではない。前出のGameDiscoverCoの調査(※リンク)によれば,低価格帯(5ドル以下)ではAI利用への拒絶感は比較的薄いが,20ドルを超えると評価基準は一気に厳しくなる傾向がある。
手描きのアートワークや緻密なレベルデザインなど「人の手によるクリエイティビティ」が評価軸になるジャンルでは,AI利用の開示自体が購入を思いとどまらせる要因になることもあるという。
開発のハードルが下がり,供給数はかつてない規模に膨れ上がったが,それが新たな価値を生んでいるとは言い難く,むしろストア内の混雑を招いている面は否定できない。
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機能しなくなったウィッシュリスト,「セール待ち」時代の生存戦略
供給の爆発的増加に伴い,ゲーマーの購買行動も大きく変化しつつある。これまでSteamマーケティングの王道は,「早期にストアページを立ち上げてウィッシュリストを集め,発売初日に一気に売上を爆発させる」というモデルだった。
しかし,生成AIの普及でストアページやプロモーション素材の量産までもが容易になった今,溢れかえるタイトル群を前にゲーマーの購買心理は根本から変わりつつある。
マーケティングアナリストのクリス・ズコウスキ(Chris Zukowski)氏が公開するデータ(※リンク)は,ウィッシュリストの質の変化を如実に物語る。
ウィッシュリストから発売初週の購入につながる変換率(コンバージョン率)は,一般的なインディーゲームで10〜15%程度にとどまるのが実情だ。定価の高いAAAタイトルや,AI生成アセットの乱用が懸念される激戦ジャンルでは,ユーザーの警戒感からこの数値がさらに下がることも珍しくない。
見た目のクオリティが高くても「中身を見極めたい」「価格に見合うか確かめたい」という心理が働く。ウィッシュリストはもはや「発売日に即買うための意思表示」ではなく,「時間ができたときや大幅セール時に思い出すためのブックマーク」へと役割を変えている。
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この変化は,資金に余裕のないインディーデベロッパにとって特に深刻だ。「初日の売上で開発コストを回収し,次作の投資やアップデート費用に回す」という従来の資金循環モデルが成立するのは,ごく一部のタイトルに限られる。Steam Nextフェスなどにどれほど魅力的な体験版を提供し,プレイからウィッシュリスト登録へ(15〜20%程度の割合で)つなげたとしても,溢れる競合の中で実際の定価購入に至るハードルは以前にも増して高い。
これに対しValveもストアのアルゴリズムを順次更新しており,現在のSteamストアは「初日の瞬間風速的な売上」や「ウィッシュリストの登録数」だけでなく,発売後もエンゲージメントや高評価を維持する作品(バックカタログ)が継続的に露出されやすい仕組みへとシフトしている。ウィッシュリスト登録者へのセール通知の最適化など,長期的に購買を促す環境整備が進んでいる。
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市場が「初日の爆発力」から「長期的なカタログ販売(ロングテール)」へ舵を切る中,開発者に求められる生存戦略も根本的な転換を迫られている。AIツールで制作コストを削減し露出を増やすといった表面的なアプローチだけでは,選択肢の多いゲーマーの注意を引き続けるのは難しい。
今求められるのは,リリースを「ゴール」ではなく「長期的コミュニケーションのスタート」と捉え直す視点だ。
定期アップデートやロードマップの提示でプレイヤーの期待感を維持すること,DiscordなどSNSでコアなファンコミュニティと密な関係を育むこと,そして適切な割引率とタイミングを見極めたセール戦略を展開すること。短期決戦での資金回収ではなく,発売後のこうした地道な運用こそが,ウィッシュリストに眠る「将来の顧客」を少しずつ掘り起こし,作品の寿命を延ばし,次作のマーケティングの土台にもなっていく。
供給過多が極まるSteam市場では,ゲームマーケティングの本質は「一瞬のバズをいかに起こすか」から「息の長いエコシステムをいかに築くか」へシフトしたと言えるかもしれない。AIの利用の有無にかかわらず,初日の数字に一喜一憂する時代は終わり,プロダクトの真価と持続可能性が問われる「長い戦い」の時代が始まっている。
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著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。






















