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「ゲーマーのためのブックガイド」は,ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や,ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を,ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から,とことん深く濃厚に掘り下げるものまで,テーマや執筆担当者によって異なるさまざまなスタイルでお届けする予定だ。
パワードスーツに強化外骨格,英語ならpower armorやexoskeletonと,呼び方はさまざまだが,そのどれもが人間の動きを機械で補助・強化し,普段より重いものを持ち上げたり,高く飛び跳ねたりできるようにするカラクリ仕掛けを指す言葉である。
さらに弾丸や真空,水圧,有毒な大気に耐える鎧の機能を持ち合わせていることも多く,ゆえにパワード(強化)なスーツ(服)というわけだ。
近年は,現実社会でも(その機能の一部ではあるが)実用化されつつある,このパワードスーツだが,元を正せばその起源はSF小説に遡る。登場以来,さまざまな作品で用いられているあたり人気のほどがうかがえるが,もちろんゲームも例外ではない。
古くは「メトロイド」がそうだし,「HALO」や「Fallout」の装備も,まあパワードスーツと呼んで差し支えないだろう。近年のタイトルだと「エグゾプライマル」や「プラグマタ」あたりが該当するだろうか。
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今回紹介するのは,そんなパワードスーツにフォーカスした一冊「この地獄の片隅に パワードスーツSF傑作選」である。このところ,創元SF文庫からJ・J・アダムズ氏やJ・ストラーン氏らの編によるテーマ別SFアンソロジーシリーズがいろいろ出ており,半分以上読んだのだが,そのなかでもとくに構成がよいと感じたのがこの本だったのだ。
「この地獄の片隅に パワードスーツSF傑作選」
著者:J・J・アダムズ(編),A・レナルズ/J・キャンベルほか(著)
訳者:中原尚哉
版元:東京創元社
発行:2021年3月12日
定価:1210円(税込)
ISBN:978-4-488-77202-4
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パワードスーツの魅力とはなんだろうか。
それは例えば,人間を人間のまま,人間以上のものにするところかもしれない。パワードスーツの乗員は多くの場合,ミュータントでもサイボーグでもない,普通の人間だ。「自分はもう人間ではないのだ」などと苦悩することこそないが,スーツがなければただの人。非番を狙われたらエラい目に遭う。
それは例えば,人間を人間サイズのまま,人間以上のものにするところかもしれない。街角に佇み,ときに街中を駆け回るパワードスーツには,街を見下ろす巨大ロボとは違った風情がある。
それは例えば,人間サイズのゴツゴツしたメカと,人体の対比かもしれない。ゴツいスーツの隙間から垣間見える人体には,それが筋骨隆々だろうと柔肌だろうと,そそるものがある。あるいはゴツいスーツの肩に,卑小な人体が乗っかっているのも悪くない。絵として非常に映えるものがある。
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「この地獄の片隅に」に話を戻すと,同書は全編書き下ろしの短編アンソロジーだ。創元のこのシリーズには,全編書き下ろしと,既存の人気作に数編の書き下ろしを加えたタイプがあるが,この本は前者というわけだ。収録作品は12編で,いずれもがパワードスーツにこだわった新作である。
実際,編者であるアダムズ氏がパワードスーツにかける情熱はかなりのもののようで,自身も前書きで,
Armorを(すぐに続いて『宇宙の戦士』と大量の《アイアンマン》コミックも)読んで以後、動力付き戦闘装甲スーツを着た兵士が単身で戦うストーリーが好きだ。創作に手を染めるようになって(十八歳くらいだった)最初に書いたのもパワードアーマーの兵士が主人公だった。つまり、筆者の全キャリアはこのアンソロジーのためにあったといっても過言ではない。
と熱く語っているくらいである。
さて,ではこの本のどこが素晴らしいかというと,まずは視点が分かりやすい。これはパワードスーツもののアンソロジーなのだ。従って,ほとんどの話の視点人物がパワードスーツの乗員か設計者,あるいは取材者か人工知能だと見当がつき,話に入りこみやすいのだ。
未来の話だけでなく,過去を舞台にした話が2編あるのもいい。19世紀のオーストラリアや,20世紀のスペイン内戦の時代にパワードスーツが存在したら……という趣向で,短編集の幅を広げるのに一役買っている。
また幅という意味では,主題との距離感も適切に感じられた。全12編のうち,パワードスーツものとしては「いささか大きすぎやしませんか」が1編,「うんまあ,スーツに見えりゃスーツだよな」が1編,「これパワードでも何でもねえ」が1編といった具合である。逆に言えばズレ具合はその程度なので,主題からの逸脱具合は「高からず低からず」といったところだろう。
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一方,構成という意味では,作品の並び順も実にナイスである。
パワードスーツSFの代表作を問われたとき,多くの人は義手の延長線上にあるパワードスーツを描いたハインラインの中編「ウォルドウ」(早川書房「魔法株式会社」所収)ではなく,兵器としてのパワードスーツが登場する長編「宇宙の戦士」(早川書房)を挙げるだろう。小説であれ漫画であれ,映像作品でもゲームでも,パワードスーツは戦場で用いられるものが花形なのだ。
翻ってみるに,巻頭の表題作「この地獄の片隅に」に登場するスーツが,まさにこれである。つまり読者が期待するものそのままが,巻頭から読めるようになっている。そして続く短編「深海採集船コッペリア号」では,民間用のパワードスーツが描かれ,しかもふんだんにアクションを繰り広げる。これもまた王道の直球といえる。
そこから編者らは内外角へ変化球を散らしはじめ,そして最後にすごいクセ球を投げてくる。詳細は伏せるが,最後の一篇は最後であることに意味がある一篇なので,その意味は実際に手に取って確かめていただきたい。
最後に,挿絵についても触れておきたい。
本書では,すべての短編の扉に登場するパワードスーツが描かれており,想像力を刺激してくれる。しかも挿絵を担当しているのは,「宇宙の戦士」で日本と世界に「パワードスーツかっこいい」を知らしめた加藤直之氏である。
ちなみに,本書に収録のパワードスーツ任侠アクション「ノマド」に登場するパワードスーツは,乗り物に変形する機能が付いているにもかかわらず,作中では一度も変形しない。なんでやねん。しかるに扉のイラストでは変形しているというサービスっぷりである。
SFにおいて,絵の力はやはり大きい。創元のほかの短編集にも扉絵は用意されているが,本書とロボットものの2冊――「創られた心」と「ロボット・アップライジング」はとくに素晴らしかった。
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「この地獄の片隅に」には,パワードスーツのさまざまな魅力が詰め込まれている。絵の魅力ももちろんだが,それ以外にも。
それは例えば,パワードスーツの着用者と人工知能の奇妙な関係かもしれない。
それは例えば,「機械のアシストを受けた生物は果たして生物なのか。その意志はどこまでが自分なのか」という問いかもしれない。
パワードスーツが登場するゲームを遊ぶとき,本書を手元に置いていれば,その両方がよりいっそう楽しめるはずである。
■■桂 令夫(著述・翻訳家)■■
著述・翻訳業。主要翻訳ゲームに「ダンジョンズ&ドラゴンズ」シリーズ(共訳,ウィザーズ・オブ・ザ・コースト),「サイバーパンクRED」シリーズ(共訳,ホビージャパン)など。なお「コマンドマガジン」(国際通信社)でも書評記事「ゲームから本へ、本からゲームへ」を連載している。


























