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登壇したのは,Turtle Rock Studiosでナラティブリードを務めるAdam Dolin氏だ。「God of War」「Horizon Forbidden West」「God of War Ragnarök」などでライティングやナラティブデザインに携わってきた人物で,本講演はAlexa Ray Corriea氏とともに準備された。当日はCorriea氏が参加できなかったため,Dolin氏がその内容を引き継いで語った。
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価値観の違いを,話し合いの出発点にする
テーマは,社会の分断が進み,アルゴリズムによって人々の注意が奪い合われる環境のなかで,ゲームの作り手はどのように物語を届けるかというものだ。
Dolin氏は,ゲームが今も広く遊ばれ,欧州主要市場の売上が伸びる一方で,スタジオの閉鎖が相次いでいる状況に触れた。プレイヤーの時間とお金をめぐって競う相手も,ほかのゲームだけではない。SNSや映像配信をはじめ,注意をつかむために設計されたさまざまなデジタルメディアがある。
さらにSNSでは,細かなニュアンスが失われやすい。「自分には合わない」という感想と,「これは客観的に悪い」という断定が混同され,リスクを取った表現ほど強い反発にさらされることもある。
良い作品を作るには,リスクを取らなければならない。クリエイターの立場からは,そう考えやすい。しかしDolin氏は,そこでいったん経営側の視点に立つよう会場に促した。
多くの従業員とその家族の生活を預かる立場では,リスクは魅力的な挑戦であると同時に,会社の存続を左右する賭けにも見える。Dolin氏は,近年の大量解雇や個々の経営判断を擁護する意図はないと断ったうえで,判断の背景を好奇心を持って理解することも必要だとした。
講演では,観客,クリエイター,経営側という3者が,それぞれ異なるものを優先していることが示された。観客は楽しみや感情が動く体験を求め,クリエイターは何かを表現しながら生活も成り立たせなければならない。経営側には利益を生み,予定どおりに作品を完成させ,従業員の働く場を守る責任がある。
ここでいう「価値観」とは,善悪ではなく,何を優先するかという意味だ。安定を重視することが,リスクや野心を重視することより道徳的に劣るわけではない。ただ,それぞれが大切にしているものが違う。
自分の価値観は,予算が危うくなったときや,リーダーから異なる方針を示されたときに表れる。自分と所属するスタジオが何を重視し,どこで両者が衝突するのかを把握すれば,何を譲り,どこで交渉するのかを考えるための枠組みになるという。
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“安全な物語”と,批評とバックラッシュの違い
続いてDolin氏は,分断された情報環境について語った。人は自分の世界観に近い情報源を選びやすく,アルゴリズムもその傾向に合う情報を表示する。プレイヤーも,そうした環境のなかでゲームに触れているというのが,Dolin氏の前提だ。
その一方で,ゲームには異なる立場の人物を自分で操作し,その視点を体験できる特徴がある。
講演では,「Detroit: Become Human」の一場面を使った研究と,シリアから脱出した人物の体験を基にした「Path Out」の研究が紹介された。
「Detroit: Become Human」を使った研究では,キャラクターとの一体感を介して,ジェンダーに基づく暴力の被害者への認知的共感が高まる関係が示された。ただし,共感への直接的な効果や,暗黙の偏見との関係は確認されていない。「Path Out」を30分間プレイした参加者は,比較対象のゲームを遊んだ参加者よりシリア難民に対する偏見を示す回答が少なく,共感も高かった。
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Dolin氏は,こうした研究を,ゲームが異なる視点に触れる機会を作り得る例として示した。ただし,調査人数や参加者の属性まで確認しなければ,結果を安易に一般化できないことにも言及している。
強い主張を持つ物語は,反発を招く可能性がある一方で,誰かに深く届く可能性もある。その反対に,誰の感情も刺激しないよう作られた“安全な物語”は,問いも反応も生まないまま,多くの作品に埋もれてしまうかもしれない。
Dolin氏は,安全な物語が悪いのではないと前置きしたうえで,作品で何かを語れば,全員の同意を得られるわけではないと説明した。
そこで重要になるのが,批評とバックラッシュを分けて考えることだ。
講演における批評とは,作品を体験し,なぜそう感じたのかを振り返ったうえで示される,具体性やニュアンスのある意見を指す。一方のバックラッシュは,感情的かつ反射的で,個人攻撃や組織的な反対運動として現れることもある。
Dolin氏は,「ソニック・ザ・ムービー」の初期デザインと,Disney+のドラマ「スター・ウォーズ:アコライト」を例に,作品内容への具体的な批評と,大量の低評価を伴うレビュー爆撃などが同時に起こり得ることを説明した。両者が入り交じるなかで,どの意見に耳を傾けるべきかを見極めるのは簡単ではない。
作品を世に出した時点で,作り手はその受け取られ方を完全には制御できなくなる。だからこそ,反応がどこから来たものなのかを慎重に見る必要がある。また,作品の商業的な成否や批評上の評価と,作り手自身の人間としての価値を切り離すことも大切だとした。
文章を減らすのではなく,見せ方を設計する
では,通知や短い動画が次々と注意を引くアテンション・エコノミーのなかで,ゲームの物語をどう届ければいいのか。
Dolin氏が挙げたのは,「Layered Storytelling」,「Rewarding Curiosity」,「Strategic Brevity」という3つの考え方だった。
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Layered Storytellingは,ナラティブ部門だけで物語を伝えようとせず,アートや環境,サウンド,ゲームデザイン,UIやUX,演技など,複数の層を使うことだ。良い物語のアイデアはどの部門からも生まれ得るし,プレイヤーに伝わらない問題を台詞だけで解決できるとは限らない。
Rewarding Curiosityの例としては,「The Messenger」が挙げられた。ショップにある戸棚を調べると,店主から「触らないでください」と止められる。それでも何度も触り続けると,本当にスキップできない長話が始まる。重要なのは長い文章をなくすことではなく,プレイヤーが好奇心から見つけたくなる形にすることだ。
Strategic Brevityの例は,「Disco Elysium」と「FINAL FANTASY XVI」である。前者は膨大な文章を短い単位に分け,プレイヤーを会話に参加させる。後者のアクティブタイムロアは,その場面に関係する人物や国家,場所などの情報を,必要なときに確認できるようにしている。
方法は異なるが,どちらも厚みのある世界を,プレイヤーに“文章の壁”と戦わせずに伝えるためのものだ。Dolin氏が強調したのは,文章を短くすることではなく,文章をどう配置し,どう見せるかもデザインの一部であるということだった。
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データを疑い,好奇心を持って話す
講演の後半では,メディアリテラシーも取り上げられた。Dolin氏はそれまで,ゲーム市場の売上やプレイ時間,政治的分断などのグラフを示していたが,ここで,グラフに書かれていないものにも目を向けるよう促した。
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売上が伸びていても,インフレを考慮した実質的な成長は横ばいかもしれない。消費者が使った金額と,ゲームスタジオの利益も同じではない。先ほどの「Path Out」の研究例も,潜在的な態度の差は統計的に有意ではなかった。対象もEdge Hill Universityで募集された18歳から28歳までの76人に限られており,結果を広く一般化するには,さらに研究が必要になる。
誰が費用を出したのか,調査人数や方法は何か,何が示されていないのか。自分が信じたい結論を示すデータほど,そうした点を確認する必要がある。
そして物語を作るときには,内容を安易に単純化せず,プレイヤーを信頼する。UXやゲームプレイと同じように,物語が理解されているかも早い段階からテストする。台詞が直接的すぎると言われた場合にも,風刺,寓話,象徴,モチーフなど,ライターが使える表現方法は数多くある。
最後にDolin氏は,自分の価値観と衝突する修正をリーダーから求められたときの話し合い方をまとめた。非公開の場で,可能ならリアルタイムに話すこと。何が問題なのかを明確にし,「嫌いだ」と言うだけでなく,データと代わりの案を用意すること。そして,相手に質問し,開かれた姿勢で話を聞き,互いへの敬意を保つことだ。
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相手には,自分とは異なる優先事項がある。意見の違いは,自分の人格に対する否定ではない。結論が出ない場合があっても,双方が目指しているのは,良いゲームを完成させることだ。
Dolin氏が最後に掲げたのは,「ABC――Always Be Curious」という言葉だった。好奇心は,プレイヤーを物語へ導くだけでなく,異なる価値観を理解し,対話を始めるためにも必要になる。Dolin氏は,ゲーム業界に望む変化を,まず自分自身が体現してほしいと講演を締めくくった。
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